リンガヒロシマ共同研究者の成果報告②

若い共同研究者の成果第2弾です。リンガヒロシマの共同研究者モハンマド・モインウッデンさん(大阪大学)の評論が『原爆文学研究18』(2019年12月21日発行)に掲載されました。ヒンディー語で出版されたマファ・マジ―による長編小説『マラング・ゴダ ニルカーント ファ』(2012)の評論です。作者マファ・マジ―は、現代インドの先住民作家で、ヒンディー語の文学者として知られています。この小説は、東インドの先住民族による反核運動をテーマにしています。「核にまつわる場所に関する文学はアメリカで多いが、欧州諸国では僅か。インド・パキスタンについてはほとんどない」と論者は言います。今回取り上げた小説は、2011年3月11日のフクシマ原発事故以降に出版され、2回インドで再版されています。4億人を超えるヒンディー語の話者数と再三にわたってこの本が増刷されたことから、出版部数は少なくはなかったと推察されます。作品中、全体の半分以上(200頁以上)がヒロシマ・ナガサキの被爆者に関する言及です。小説の主人公であるサゲン・ラグリ(ウラン採鉱反対運動の指導者)は「ヒロシマ・ナガサキについて読んで初めて、私は放射性物質の被害の実相を理解できた」と言います。本評論の結論部分でモインウッデンさんは、この小説が被爆の実相を小説に取り込んだ結果「マラング・ ゴダ」の被曝者の実態や放射能汚染の影響を一般の読者に分かりやすく伝えることができたと評価しています。今後、マファ・マジ―によるこの長編小説『マラング・ゴダ ニルカーント ファ』が英語版や日本語版をはじめ多言語で出版されることを期待します。